平成29年度 高度専門職業人養成機能強化促進委託事業

MICE・地方観光人材育成プログラム〜持続的な発展を目指して

ニーズ調査needs-survey

調査概要

本調査は、文部科学省、高度専門職業人育成機能促進委託事業の一環として2017年10月に実施された。本調査の目的は、都市部の宿泊施設に勤める従業員の企業研修の実態調査と国際会議の経験、現在必要とされている技能等について理解することである。そのため、WEB調査を行った。被験者は宿泊施設の業務に5年以上就いているもので、人口50万以上の都市に立地する客室数200以上で会議室を持つ施設に勤めている者300名を選定した。

調査結果

1. データの概要

データの概要は以下の通りである。

  • 男性回答者は女性に比べて年齢が高くなっている。回答者数は男性217名、女性83名である。
  • 世帯別の年収はおおよそ勤労者世帯の年収と似通っている。なお、年収と年齢の相関は、0.216で統計的には有意であったが、それほど高くはない。年齢が高くなっても給与があまり上がらないことを示している。

2. 研修の実態

本調査では、各施設での研修の実態についても調査を行った。


  • 外部・内部の研修の公開につては、半数以上の回答者が効果があると回答している。しかし外部・内部での研修は3分の2の従業員が受けているだけで、全体にまでは対応できていないことが分かる。
    研修制度について受講者について男女差は無かった。

3. 国際会議の経験と必要される技能

国際会議の経験者は、企画、実施ともに30%程度であった。
実施経験者は、国際会議の実施に当たって専門人材の育成が必要であるという回答をする率が高くなっている。このことは、この分野でMICE、国際会議ともに専門人材が求められていることを示している。

また国際会議の実施者は自治体連携を経験している率も高くなり、国際会議の誘致や諸施設との連携などを通して自治体との連携の重要性が伺われる。この様なことが実施可能な人材が求められる。

4. 顧客への意識

  • 会議の主催者の満足を重視できるようになるのはMICEの実施回数が増えてくる必要がある。ある程度の数をこなしていくことが重要である。また、実施数が少ない組織であっても主催者満足の重要性を認識できるように考えるべきであろう。

調査から理解されること

この結果ら分かることは、国際会議の開催には専門家が望まれており、またその仕組みを理解するためには一定の経験が必要であると言うことである。特に自治体との連携の重要性や主催者の満足の向上への施策などは経験がものを言うことになる。

ただ、離職率も高いこの業界で継続的な教育が難しくなっており、外部での教育機会の確保や中途採用者の活用など課題が多いことも想定される。

MICE人材の地方への移転

今回の調査では、被験者の就業地域も調査している。国際会議の開催経験は、東京、関西に偏っており、地方での開催経験はそれほど多くは無い。施設の集中や交通の利便性を考えると札幌、福岡、横浜、神戸などでも開催実績が積まれてきているが、ホテルの従業員にその経験が転嫁されていないと言えるだろう。
彼らが、企画、実施に当たって一定の役割を果たすことで、知識の地方移転も可能となってくる。ホテルチェーンでのネットワークをはじめとして、全国に人材を供給するためには自治体やその地域の人材だけでは不十分で有り、この産業での人材育成が必須であると考えられる。

施設・設備よりもネットワーク

以上の調査から、現在集中している国際会議やMICEの企画、実施に当たって地方での開催を活性化しようとすると宿泊から会議まで一定の機能を兼ね備えたホテルで経験を積んだ従業員の育成が必要であることが分かる。
今回の調査を受けてこの分野で先進的な試みを行っている事例として神戸ポートピアホテルを取り上げることの意義が高いことが再認識された。
そこで必要なことは、施設・設備に加えて人的なネットワークの構築の重要性の認識である。そのネットワークは、自治体をはじめとした地域内でのネットワークと人材流動を含めた地域間のネットワークがあって始めて成り立つと考えられる。

ここで紹介した本調査の分析は、全体の一部であるが、追加的な分析の結果は別途公表する予定である。

関西学院大学専門職大学院経営戦略研究科 教授
山本昭二